トレーニングセットの組み方(3)

学内向けに書きました

今回は追い込むというよりは出力に焦点を置いたトレーニングについて紹介します。

 

<はじめに>

実は瞬発力と一言で言ってみても、瞬発力に内包される物体にかける力と速度はトレーニングによって様々です。

https://trainingfor.hatenablog.com/entry/2018/08/17/185012

上のサイトでも分かるように、瞬発力(パワー)は雑に言うと力と速度で成り立っています。その関係を示したものが力-速度曲線です。例えば、スプリントやバウンディングなど低強度かつ繰り返し行う運動は速度が、ウェイトトレーニングで扱える最大重量を挙上する時は力が大きくなります。ジャンプスクワットやクリーンはその間に位置し、かつ瞬発力が特に発揮される運動です。

これは競技に必要な出力のみを行う練習をすればいいというものではなく、それを把握しつつまた別の出力を鍛えることで全体を底上げするという目的で知っておく必要があります。特定のトレーニングによる伸び代には限界があり、したがって最適なトレーニングを続けることが最適解とは限らない、ということです。

ところで、ウェイトトレーニングでは基本的に力と速度であれば力が重視される局面が多いです。しかし、これはウェイトトレーニングが力を重視したトレーニングを専売特許として持っているからであって、速度に着目したトレーニングが出来ないからではありません。

 

<速度に着目したトレーニング>

バーベルや自重などの負荷に対して爆発的にパワーを発揮し、高速で挙上するトレーニンです。初動負荷トレーニングもこれの一部です。

素早く挙げるということ自体はフォームさえ整っていればメニューを問わず行えるので、スクワットやベンチプレスなどの他、マシンでのトレーニングでも適用できます。

重量は30%1RMかそれより大きいくらいでやればいいと思います。1RMが分からない場合は10回挙がる重量の半分くらいを目安に行えばいいと思います。30%1RMにこだわる必要はないですが、これより軽かったり70%1RMといった重たい重量でやるとパワーを出しきれなくなります。

このバリスティックトレーニングは素早く動かせるような重量である必要があるため、必然的にレーニングボリュームは低くなります。一方で、とても高いパワーを発揮できるため強度は高くなります

これらの特徴から、シーズンイン、特に試合前時の調整に有用で、ウェイトによって得たパワーを維持しつつ疲労を抜くことができます。シーズンオフでも疲労が溜まって全然トレーニングを行う体力が残っていないという場合、こちらに置き換えてやるとトレーニングが継続でき、パフォーマンスも維持できます。

しかし、この軽い重量を素早く上げるというトレーニングは本来のウェイトトレーニングの目的からはやや離れたものです。フィジカルを改造するという趣旨があるならば、普通のメニューを差し置いてこのバリスティックトレーニングを優先的に行うのはあまり適切ではありません。また、スピードを速くすればする程、フォームに対する意識は抜けてしまいます。スクワットやベンチプレスなどで行う場合は、ちゃんとフォームを一通り身につけてからやる必要があります

 

プライオメトリクスとは、パワー発揮の前に動作に用いる筋を急激に伸ばして行う伸張反射(SSC)を用い、切り返し運動を行うものを指します。この切り返しは脊髄反射で大きな力を発揮することができると言われています。

「プライオメトリクストレーニング」のニュアンスで行うトレーニングに関しては、ハードルジャンプやバウンディング、ジャンプスクワットなどSSCを利用する中で低負荷かつ高速の運動を指す場合が多いと思われます。

が、実はSSCは切り返しが可能な種目では大方SSCを用いることが可能です。と言うよりむしろ無意識に用いられています。精神的負荷も和らぐことから、チーティングの1つとしても扱われています。

要は、「プライオメトリクストレーニング」としてはスピードを重視し、そうでなければスピードはあまり意識しないと言った具合です。(実際はそんな区別はしないと思います)

SSCトレーニングのセットは60~70%1RMで8回といった程よい重量と回数で始めるといいかなと思います。素早い切り返しを求める「プライオメトリクス」のニュアンスで行うならば30%1RMくらいで行うといいと思います。

チーティングとして用いる場合、いつもより重ための重量で行います。(例えばアームカールの場合、挙げてからバーベルを下ろす際に標的の上腕二頭筋のストレッチを意識しながら下ろし、もう負荷が抜けそうだなと思った位置で切り返しを始めるといいと思います。)

なお、切り返す区間での静から動のパワー発揮が養われないこと、ストレッチ時に最も負荷がかかるトレーニングで行うと怪我のリスクが比較的高いことには留意しておく必要があります。前者は必要に応じてボトムで止めてから挙げる「ストップ&ゴー」や「デッドストップ法」、後者は重量を落として行うと安全だと思います。

また、切り返しの練習を行うなら、切り返すまでの重りの速さはある程度抑えておく必要があります。落とすスピードが速いとSSC以外でのチーティングが入ってしまい、トレーニングとしての価値が弱くなる恐れがあるためです。

 

  • ストップ&ゴー

挙上する前に一定時間止め、そこから爆発的に挙上するレーニングです。「止める」という手順が明確にされていること以外はバリスティックトレーニングとほぼ同じなので、分けて書く必要があるかどうか悩みましたが書きました。

使う重量は50%1RMくらいで挙げるスピードが遅くなったと思った時点で終了します。バリスティックトレーニングみたく30%1RMでやってもいいと思うので、パワー発揮ができる重量であればそこら辺は適当でもいいと思います。

これも試合前の調整に使えるので、シーズンイン時に偶にメニューに挟んでやるといいと思います

 

  • スピードを重視した固有の種目

ジャンプスクワットやスローベンチプレスはスクワットやベンチプレスとは異なる動作として変化しました。

ジャンプスクワット...その名の通りスクワットの動作からバーベルごとジャンプする種目です。しゃがむ時の深さはあまりこだわる必要はありませんが、接地してから腰を落とし始めるのではなく、接地と同時にしゃがみきるようにするのがコツになります。こうすることで強烈なハムケツのストレッチに耐えるという意味でパワーが鍛えられます。最低限スクワットの重量を挙げられるようになり(自重~自重*1.5くらい?)、ハムストリングや大臀筋に負荷をかけられるフォームを習得してからの方が安全に行えます。スクワットの重量がまだまだの人はスクワットを伸ばした方が良いと思います。

スローベンチプレス...フリーウェイトで行うベンチプレスと違い、「スミスマシン」というバーがマシンのレールに固定され上下にしか動かない器具を用いて行います。ベンチプレスと異なりバーを放り出せるため強く押し切れます。僕がそもそもこの種目をやったことがないのであんまり詳しく書けません。普通に前鋸筋や小胸筋も動員できる腕立てジャンプでもいいような気がします。

 

  • (デッドストップ法)

ストップ&ゴーと粗方同じですが、こちらはスピードを重視しません。ついでとして説明したいために書きましたが、このトレーニングは普通に追い込むトレーニングとしても使います。デッドストップ法はボトムでの力の発揮に着目したトレーニンです。ボトムで止めて挙げる場合、挙上可能な重量は10%ほど下がるとされているため、いつもより1割ほど低い重量で行うといいと思います。

厳密には床やセーフティバーなどの器具へ一定時間留めるものをデッドストップとするものだと思ったのですが、ポーズスクワット、ポーズベンチなど体のみで止めるものも意図は同じなので一緒にしました。

 

  • (クイックリフト)

スナッチやクリーン、ジャークなどの種目は瞬発力によって挙上するトレーニングです。スピードを意識するというよりはスピードが必要な種目です。これらは重たい物を速く挙げるという点で他の種目とは一線を画する種目です。パワー発揮を最大限行えるトレーニングで、かつ脚から背中に至るまで数多くの筋を動員して挙げることができる点で、クイックリフトはとても優秀なトレーニングです。

一方で、適切に効果を得るためにはとても苦労する種目でもあります。スクワットと同様に全身を使う上に動作が複雑、その上素速く挙げなければならないためです。

やり方などをここで詳しく書くと長くなるので省略しますが、クイックリフトがウェイトトレーニングでは瞬発力を鍛えるための中核を担うため載せました。

 

<雑記>

アスリートからすると、同じ重量でトレーニングするならより速いスピードで挙げた方が良いということは肌感覚として分かりますが、そうは言っても優先順位が最も高いのはフォームの丁寧さです。マシントレーニングやダンベルを用いた単純な動作においてはそこまで問題はありません。しかし、スクワットなどの複雑な運動で取り入れるにはまずその動作に慣れ、MAX重量もある程度把握できるレベルになってからでないと適切な強度で出来ず、かつ目的の部位に作用させることができません。

そのため速度を意識したトレーニングは初心者向けではありません。ウェイトトレーニングの初心者はまずちゃんとベーシックなトレーニングに慣れる方が大切だと思います。